エグゼクティブ・サマリー
個人の違いを記述する学術スタンダードのビッグファイブ性格特性。一方で、日常社会では性格の理解に根強い混乱があり、ビジネス活用の初歩から致命的なネックになっています。
本レポートは前提知識ゼロのビジネスパーソン向けに、因子分析の研究潮流からビッグファイブの意義を適切に理解し、なぜ従来の分析手法が実用化しなかったのかを確認します。
- ビッグファイブの特定と再現性は因子分析に支えられている。PM2.5拡散の成分クラスタ・原因経路を特定したのと同様の手法
- 信頼性・情緒安定性・開放性・外向性・協調性の5軸が共通言語として確立。人格は、ほかの要素を考える必要がなくなった
- コーチング研究は人格の変容を支持していない
- 仕事のミスマッチは、育成では解決できない。ビッグファイブの追跡観測が主な対策に
ビッグファイブは人の性格を5つの主要な特性で記述する分析手法です。 1992年の登場以来、科学研究では圧倒的な実績を積み上げて標準手法として確立しています。
ビジネス活動における性格分析の意義は、得意・不得意の限界を把握することです。
企業研修・育成の効果が上がらない本当の理由 でくわしく解説しているとおり、従来の人材育成の期待に反して、その主要な部分が研究過程で否定され、むしろ個々人がもともと持っている属人的な資質で決まっていることが明らかになっています。
仕事のミスマッチは、職場の上司・同僚にとっては日常的に悩みの種になりますし、本人はキャリアの希薄化やメンタル疾患に直結します。
計測すればすぐに分かる事実として、ビッグファイブのパラメータは個々人で大きなバラつきがあります。 適材適所を実現するには、まず上司・同僚・部下の性格について広いコンセンサスが不可欠であり、よって分析指標の正しさが大事です。
因子分析がもたらしたブレークスルー
ビッグファイブが支持されているのは、因子分析を起点とする堅牢な構造 が確認されてきた、という意味での正しさから来ています。
心理学には捉えづらい面があり、過去に捨てられた16分類の仮説などが若者を中心に復活してしまうような問題が現実に起きています。これは、Web検索・SNSが増幅した脆弱性です。
そのため、成立した背景の適切さを確認しておくことも大事です。同様の進展を遂げてきた大気汚染のPM2.5解析の例を確認することで理解が進みます。
因子分析は、複数の要因が混じり合った分析対象の中に含まれている主要な共通成分を浮かび上がらせる計算手法です。 PM2.5の場合には、自動車からの排出(排気ガス/タイヤ摩耗/ディーゼル)、石炭燃焼、重油燃焼、木材燃焼、海塩、金属、建設粉塵といったまとまりで抽出されます。
因子分析そのものはこれらの仮説構造を提案するものであり、推理小説で言えば事件現場に残された手がかりのようなものです。 分かりやすさのために具体的なラベルを列挙しましたが、じっさいには初期段階では「タイヤ摩耗特有に見える成分セット」などが得られます。
そして、個々の成分に対して追跡調査を行なうことで仮説全体の手堅さを確認できます。分かりやすい例では、重金属などの特徴的な原子は証拠として強い。
PM2.5研究は、このような地道な確認を積み上げることで因子モデルの正しさが確認されてきました。
そして、ビッグファイブも同様の経緯を経て広い支持を得ています。
5つの性格因子の構造が単に抽出されただけではなく、幅広い分野で再現性を持って確認されてきたことが客観性の根拠です。
やさしさaとやさしさbの多義性
ビッグファイブ研究のブレークスルーは、性格成分の特定と同時に、人格記述の共通言語を確立した点にあります。
日常言語には性格を記述する単語が無数にあります。 例として「やさしさ」という語を確認してみましょう。
| 仮分類 | 指している意味 |
|---|---|
| やさしさa | 誰にでもフレンドリーな声をかける、人と会話すること自体から喜びが出る |
| やさしさb | 表面的には叱っている。実際には相手の未来の不都合を強く避けるシグナルを出している |
おそらく素朴な用語の使い方としては、やさしさaの意図で使われることが多いでしょう。一方で、やさしさbの用例もあります。 このように、日常語の性格表現には複数の意図を指す多義性がつきまといます。
この性質は、長らくアカデミックな性格研究のネックであり続けました。
各人の指している意味が一致しなければ現実のできごととの相関も得られません。適切な記述指標がなければスタート地点に立てないのです。
ビックファイブは共通言語
同じ例をあらためてビッグファイブに沿って解釈すると、やさしさaは協調性が高い人物、やさしさbは信頼性が高い人物、と表現できます。 この例では分かりやすく違う意図が同居する用語をとりあげましたが、用語ごとに多義性の微妙さはさまざまです。
| 特性 | 説明 | |
|---|---|---|
| 1 | 信頼性 | あらかじめ決められたルールに忠実な度合い |
| 2 | 情緒安定性 | ネガティブな情動に関する強さ・持続性の度合い |
| 3 | 開放性 | 連想や行動が表現する複雑さ・幅広さ・深さ・他者との違いの量 |
| 4 | 外向性 | 社会や物質的な外界に対して、エネルギッシュに働きかける度合い |
| 5 | 協調性 | 他の人との距離感について、集団性/孤立性の度合い |
ビッグファイブの5つの特性は、因子分析のおかげで、それぞれ他の4つの示している性格と完全に異質です。 そのため、記述内容を取り違える危険がなく、他の人と確実に意図を共有できます。
これはビッグファイブが抽出されたから理解できることですが、性格を表現する言葉が無数にあるのは、性格成分をミックスした状態や、状況との組み合わせ事象に対してラベルを細かく付けていった結果と捉えられます。
たとえば、誰とも関わりの無い環境で何かを食べているという状況に対して「ずる賢い」という表現はフィットせず、その用語を使うには他者との関わりを必要とします。 これに対して、ビッグファイブに沿って「信頼性と協調性がともに低く、開放性はやや高い」と記述すると状況に依存せず性格そのものを表現できます。しかも他人との関わりを持つ状況ではずる賢い行動を予期します。
5種の性格構成であることの支持
ビッグファイブは因子分析から抽出された上位ランキングであり、性格記述は5つの指標に集約できるという見方が支持されています。 その他の残差はありうるのですが、かなりマイナーなトピックになります。
「本当は6種類以上あるのではないか?」という関心については、HEXACOが「協調性をAgreeablenessとHonesty-Humilityに区別して6因子としたい」とする主張の支持が広まらないという線でコンセンサスが形成されてきています。
要するに広大な余白が残されている状況とはほど遠い。
よって、性格や人格を考えるときにはビッグファイブだけを議論することで足り、それ以外の何かを人が感知しているという想定を安易に置くことはオカルト論の類に当たります。 おそらく時代が進めばこのような記述は冗長になるのでしょうが、現時点の一般社会では性格記述そのものが根本的に混乱している状況を認識しておく必要があります。
性格による仕事上の限界は存在する
ビッグファイブが確立したことにより、人が関わる幅広い分野で性格の影響の分析が長足の進展を遂げました。 会社の仕事と性格についても研究が進められており、ミスマッチは存在していることが確認されてきています。
- 対人ストレスによってメンタル不調になる
- 手抜きを何度指摘しても態度が変わらない
- マネージャーが抽象的な方針で指示すると、何をして良いのか分からず動きが止まる
仕事に必要な水準は業種・職種によって異なる面があり、個別にフィットを確認すべきものです。
たとえば外界からのストレスに対して実際にどの程度ダメージを受けるかは、個々人が持つ情緒安定性に大きく左右されます。 ストレス源については、顧客由来の事象であることも多く社内の配慮で制御できないケースもあります。 その場合、情緒安定性の低いメンバーはその仕事につくべきではありません。
育成指向が職場のカオスを助長する
近年、1on1などのコーチング手法の導入が拡大しており、ポジティブシンキングや新たな視点の獲得で解決を図ろうとするバイアスが強まっています。
性格は良くも悪くも長期的に安定しているため、課題が性格由来なのであれば指導・育成による解決は望めません。 もしも職務環境を変えることなくコーチングを通じて前向きに捉えなおす指導を継続したなら、メンタル不調の原因はおおよそコーチにあります。
指導スキルを磨くのは良い心がけですが、性格面のミスマッチに該当していない大前提はあらかじめ保証すべきです。
いまとなっては、
考える力を伸ばす、という主張は無責任
な面があります。
コーチングによるbig5の変化を追跡した研究は、一部特性のサブ項目の自己評定に変化が見られると同時に、他者からの評定は外向性の一部を除き有意な変化なし、という結果でした1。
さらに後続研究ではコーチングを受けない対照群の自己評定まで変化した2ことから、研究フレームに忠実に解釈するなら、単に無効であるに留まらず、むしろ性格を変えるというセッティングの提示に自己認識を狂わせる効果があるように読めます。
Deciderを使えば、性格分析はかなり素朴で直感的です。地図を調べるときにGPS機能をONにするのと似た効果があります。 「何でも心配しがちだ」「多彩で得意なことが幅広い」といった質問にチームの同僚から回答を集めることで、学術研究と同様の方法で精度の高いビッグファイブデータを手軽に収集できます。
Deciderはスコアだけでなく詳細なレポート文としても記述するため、初心者でも解釈に迷うことはありません。 これまでに述べたようなビッグファイブの効果により、全人格を過不足なく共通言語化します。
現在地さえ分かれば、目的地にたどりつくことは格段に確実性を増します。
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Stieger, M., Flückiger, C., Rüegger, D., Kowatsch, T., Roberts, B. W., & Allemand, M., 2021, “Changing personality traits with the help of a digital personality change intervention.” ↩︎
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Olaru, G., Stieger, M., Rüegger, D., Kowatsch, T., Flückiger, C., Roberts, B. W., & Allemand, M., 2024, “Personality change through a digital-coaching intervention: Using measurement invariance testing to distinguish between trait domain, facet, and nuance change.” ↩︎